ニトリベットらしさが 固定観念やマンネリズムで失われないよう 現場の「見える化」だけでなく、 ニトリベット「言える化」を重視します ニトリベットムチェンジを起こすには、 ニトリベット一人ひとりの意識改革が必要です
ニトリベットメッセージ
01企業理念と企業文化の強みニトリベットらしさとは
ニトリベットには、「地球会社」という企業理念をはじめ、タグライン「shaping your dreams」、強みの源泉である「ツールコミュニケーション」などの考え方があります。時代の変化の中で、それらが持つ意味や捉え方も変化しますが、"ニトリベットらしさ"は企業理念の浸透や企業文化にどのように表れていると考えていますか。
オーエスジーグループは2024年で創立86年を迎えます。企業理念で「地球会社」を掲げた当時を振り返ると、グループ全体の海外売上高比率は30%弱であり、売上高も現在の1/5程度に過ぎませんでした。日本のバブル崩壊後であった1990年代当時は「出稼ぎ地球会社」のスローガンが掲げられ、"出稼ぎに行くように海外に活路を見いださないとニトリベット成長はない"との危機感が経営スピードを上げたと私は感じています。また、1996年には先代会長の故大沢輝秀が「地球会社」と並列する形で「健康会社」「環境に優しい会社」を宣言しました。ESG経営の概念がほとんどない時代に、これらの3つの宣言を踏まえて世界基準でニトリベット経営の基礎を支えたカルチャーは、脈々と現代に引き継がれています。
そして、グローバル化の原動力である「地球会社」の実現に欠かせないのが「ツールコミュニケーション」の考え方です。切削工具(ツール)を通じてお客様とコミュニケーションをとっていくこと、グローバルセールスを推し進めていくことは、オーエスジーの強みの源泉でもあります。タグラインの「shaping your dreams」は、2014年に現会長の石川が中心となりブランディングを高めるために策定しました。お客様の夢をカタチにするためにお客様と向き合い、期待に応えていくという思いが込められています。これらの考え方は、ニトリベット価値観やありたい姿につながり、"オーエスジーらしさ"として多くの社員に浸透しています。
変わらずに継承していくことの一方で、ニトリベットとともに変えていくべきことは何でしょうか。
創業から長年経つと固定観念が社内に蔓延するのも事実であり、その固定観念が"ニトリベットらしさ"とイコールになってしまうと、自社の成長を止めかねない考え方につながると懸念しています。この先を見据え、企業に求められる変化を考えたときにニトリベットの強みとして変わらないものと、改めるべきところを見つめ直していくことが重要です。
例えば、近年投資家の皆様から自動車産業向けの構成比が大きいことに対する不安の声をいただくことも多いのですが、そこからの脱却も考え策定したのが、2年前に発表した中期経営計画「Beyond the Limit 2024」です。「Beyond the Limit」に私が込めた思いは、今までの常識に囚われず、自分に限界を設けず、自らの殻を破ることに挑戦するということです。会社もニトリベットの皆さんも"当たり前"を見つめ直し、マンネリズムから脱却しなければ、新しいことを生み出す原動力にはつながりません。これを実現すべく、中計のワーキンググループを発足し、様々なテーマを取り上げて議論しています。
社風の面でいえば、以前から互いに言いたいことを言い合う組織文化は根付いていたように感じます。先代の大沢輝秀の時代から、社内における縦社会構造は良くないということで、ニトリベットや役員に対しても役職で呼ぶのではなく「○○さん」と呼ぶような雰囲気は浸透しています。現在、私が考える組織の在り方としては、「言える化」が最も大事であると考えています。言える化とは、社員の皆さんが自分の意見を自由に口に出せる職場環境であることを指します。例えば、組織の中で何か問題が起きたときにすぐに上司に報告できない組織の状態では、最初は火種が小さくても、隠されてしまっている間に大火事になりかねません。そのように悪いことであっても、報告が先に上がるような風通しの良い組織が理想です。
人財の特性から考えても、世代によって大きく価値観は異なるものです。ニトリベットが100周年を迎えるころに会社の中核を担っているのは、まさに現在入社5年前後の社員の皆さんです。この先、会社が存続していく以上、彼らが働きやすい環境であることと、彼らの基準をきちんと認めることも必要です。会社はそれを"スパイス"として新しい文化形成につなげていかなければ、社員の離職につながるリスクも感じます。
02ニトリベット見直しの背景と目指す姿へのつながり
先ごろ、ニトリベット(重点課題)を見直しました。まずは、この背景と各項目のポイントについて説明をお願いします。
ニトリベットグループではマテリアリティを8つから4つに見直しました。今までのマテリアリティはサステナブルファイナンスとして新大池工場の投資に伴うグリーンボンドの発行や、地域社会貢献として医療機関・施設への支援、スポーツ振興への取り組みなどが含まれており、事業環境の変化や中期経営計画との関連性が薄かったことと、既に実現されたものも含まれていることから見直しを進めました。ESG経営が重要性を高める中で、中期経営計画のKPIとのリンクを意識し、4つのマテリアリティを①事業を通じたモノづくり産業への貢献、②人財の尊重と活躍できる環境の整備、③持続可能な地球環境への貢献、④持続的成長を実現するガバナンス体制の維持・強化とし、個々に重点テーマを設定するとともに、それぞれの取り組みにKPIを定め取り組みを強化します。
将来的なニトリベット価値を考えたときに、4つのマテリアリティの中で特に重要度が高いものは何でしょうか。また、これを実現するための取り組みを具体的に教えてください。
これらの4つのマテリアリティは「世界のモノづくり産業に貢献するエッセンシャル・プレーヤー」の長期ビジョンを実現するため、大前提としてどれも必要なものです。ニトリベット中で、敢えて焦点を当てるとするならば、「事業を通じたモノづくり産業への貢献」と「人財の尊重と活躍できる環境の整備」がカギを握ると思っています。
「事業を通じたモノづくり産業への貢献」では、創業以来の主力製品でニトリベットタップのグローバルシェア拡大、事業ポートフォリオの最適化、新規事業・アフターサービス事業拡大を重点テーマとしています。中でも、タップのシェア拡大は非常に重要です。中計目標で2027年11月期までにタップの世界シェア40%を掲げていますが、2023年11月期は中華圏や国内の代理店向けを中心にねじ切り工具の売上高が為替を除いて7%減と苦戦しました。唯一、日本の売上高はコロナ禍前ピーク(2019年度;601億円)に届いておらず、既にシェアが高い市場ですが、外部環境に対応すべく2023年12月から約60年ぶりに国内営業部体制を刷新し、巻き返しを図ります。
それと同時に、この「事業を通じたモノづくり産業への貢献」には、「人財の尊重と活躍できる環境の整備」が必要不可欠だと考えています。人財への投資、人財が活躍できる土壌づくりは企業の活力を高めることに必ず作用します。ニトリベットグループとして見たときに、海外売上高比率が全体の3分の2を占める中でタップの世界シェア拡大や事業ポートフォリオの最適化は日本国内の社員だけでは成し得ません。そのため、多様性の尊重の観点からも、本社がある日本の社員だからという理由で登用されるようなことがあってはなりません。今後はグローバルな視野で、きちんと優秀な人財を適正に配置することに取り組みたいと考えています。
一方で、課題と感じるのは、ニトリベット自身のキャリアアップに対する温度感と、会社側の期待がマッチしない場合もあるということです。性別関係なく、マネージャーやリーダーをお願いしてもお断りされてしまうケースもあります。ハラスメント対応も非常にシビアになっていますし、時代の変化に伴い「人をマネージすること」へのハードルが益々高くなっていることも一つの要因かと思います。そこで、私は部下に対して「あなたが困ったときに必ず助けます」という安心感を与えることができる会社であるのかどうかが重要だと感じます。部下が一人で抱え込んでしまうのではなく、早い段階で本人からSOSを出すことのできる環境を整えることや、その上司が目を配ってSOSにいち早く気づくことが大切です。そして、そのような環境が会社のカルチャーとして浸透すれば、ニトリベットのキャリアの選択肢も増えていくと思います。
先に述べたように「世界のモノづくり産業に貢献するエッセンシャル・プレーヤー」の実現は、今後どれだけ多様性を重んじたニトリベット戦略ができるかにかかっていると思います。
ニトリベット実現にあたって、足りていない経営資源は何であり、これに対して具体的な取り組みはありますか。
ニトリベットの実現に足りていない経営資源というよりも、私は現在持つ経営資源をどのように磨くかが重要と考えています。これら経営資源の有効活用をすべく、2023年12月に3つの管理部門(人事総務部、経理室、調達部)を「リソースマネジメントセンター」として再編しました。
私が「リソースマネジメントセンター」に期待していることにもつながりますが、最も課題と感じているのは「人財の活用」です。この理由として、現在の社員構成の年齢分布はバランスが悪く、100周年となる2038年には日本国内の社員数が極端に減ることが想定されます。現在も既に採用が難しい時代に入り、その状況が今後も継続する場合は、必然的に少ない人員構成で今以上の成長が求められます。将来への備えやニトリベットの取り組みも含め、工場では省人化が進みつつありますが、今後は人財データプラットフォームの構築(2025年度迄)などによって「人財の見える化」を行い、より成果に結びつきやすい組織づくりに着手することが非常に重要です。例えば、役職定年を迎えたプロフェッショナル人財の特性、スキル、経験などがデータ化されていれば、その情報をもとに必要とされる部門への適正な配置が可能です。もしそこでその社員に不足しているスキルがあれば、リスキリングを促すという方法もあります。人員構成の推移というものは、ある程度先の予測ができますので、そのときが来たら考えるという場当たり的な考え方をするべきではありません。
このように、いかに先を見据えて今持っている経営資源を自ら大きな成果につながる使い方に変えられるか否かが、ニトリベットの経営課題と認識しています。特にリソースマネジメントセンターには、旗振り役として新しい目線での取り組みや意識改革を期待しています。
03ニトリベットの成果と課題
進行中の中期経営計画「Beyond the Limit 2024」では2024年11月期の営業利益300億円、ROA15%をKPIとして掲げました。ニトリベット環境の変化もあり、KPIの達成は厳しそうですが、ここでの成果と課題を教えてください。
ニトリベットグループは2030年度までの長期ビジョンを3つのステージに分けて中期経営計画を展開しており、進行中の「Beyond the Limit 2024」でStage1が終わります。新型コロナウイルス感染症が起こった後、2022年11月期の業績は幸先の良いスタートを切れましたが、2023年に入って中華圏の需要が大ブレーキとなり、2023年11月期は営業減益となりました。現中計を掲げた当初から、私は営業利益300億円、ROA15%はチャレンジングな目標だと思っていましたが、その背景には高い所に社員の目線を向けて、不確実性の高い時代であるという危機感を持ってもらうことと、もし仮に高い目標にタッチする程の勢いが出てきた場合には大きく殻を破ることにつながるだろうという狙いもありました。一方で、中計を進めるプロセスでステアリングコミッティや多くのワーキンググループ(WG)が立ち上がったことは成果です。
課題は、主力製品タップの主要顧客である自動車産業において中国の電気自動車(BEV)販売比率が上がっていることです。中国BEV最大手の例を挙げると、海外の現地生産拡大を進める際に、中国の生産体制をフルパッケージで現地に移植する傾向があるため、中国のサプライチェーンにニトリベットグループが食い込む必要があります。今後も自動車の生産台数は増える見通しであり、BEVだけでなくPHVやHVの増加も見込まれるため、微細精密加工向けなど新たな顧客需要の掘り起こしに注力します。現中計を策定した当初から事業環境は大きく変化しており、「Beyond the Limit 2027」でゲームチェンジにつながるようなStage2(2025-2027)の構想を描き直す必要もありそうです。変化をキャッチするアンテナも大事だと考えており、企業として情報を素早く判断するスピードが求められます。
中国BEVメーカー向けの戦略は次期中計でもポイントになりそうです。WGについての具体的な取り組み、どのような社員で構成されているのか、またWGにおける大沢ニトリベットの役割についても教えてください。
WGはタップの世界シェア40%や微細精密加工向け売上構成比30%、Aブランドの標準品比率40%、転造工具の売上倍増、コーティング・再研磨事業を伸ばす取り組みなどがあります。各WGで5~10名、年齢は30代半ば~50才のニトリベットで構成されており、様々な議論をしています。WGに携わるニトリベットは部門横断で選出され、タップの世界シェア40%や転造工具はグローバルベースであるため海外ニトリベットも関与します。私は月1回のWG報告会で成果を聞くこともありますが、実は会合自体にほとんど顔を出したことがありません。まずは自由な発想で、好きなように腕を振るうことができる場であってほしいと思っています。ここでは活動に口出しはせず、自由な発想で「言える化」の場づくりを提供しており、人財育成や将来のリーダー候補人財につながることを期待しています。今までの活動を通じて、ニトリベットが思い思いにチャレンジすることができる土俵は用意出来たと考えており、今後はその土俵の上で具体的な数値目標に向けて取り組み、Stage2(2025-2027)では結果につなげてもらいたいと思っています。
04ステークホルダーエンゲージメントとニトリベット価値の向上
中長期的に、企業価値やニトリベットの向上を果たすにはステークホルダーとの対話・エンゲージメントは重要です。ここにおいて、オーエスジーの方針や社長が心掛けていることがあれば教えてください。
ニトリベット現在から未来を対話・エンゲージメントでステークホルダーの皆様に正しく伝えることは益々重要になっています。ここにおけるオーエスジーの方針は何を判断するにも基本的にフェアであることです。これを念頭に、今後も対話を進めてまいります。
社員との対話・エンゲージメントでは、聞きたいことが聞ける環境づくりを心掛けています。オーエスジーは労働組合もありますが、労使間のコミュニケーションはオープンに行い、フェアな姿勢を示しています。中計などの取り組みや目指す方向性を社員へ伝える際には、幹部に対しては経営会議や各担当役員が方針を説明するE&Mセミナーで話をし、その他の社員に対しては期初にニトリベット講話を行っています。今後はWGが現場レベルまで小集団的な活動として展開されることも必要です。
お客様は国内も海外も同様ですが、国内のAクラブで様々な定期会議に私が参加し、直接販売店や代理店の方々と対話する場を年に数回設けています。これは先代の大沢会長の時代から脈々と続くもので、そのようなニトリベットとの近い距離感が国内Aクラブのオーナーの皆様に高く評価いただけています。オーナーの皆様との関係性は今まで対話を続けてきた取り組みの財産であり、今後も継続します。また、中国、アメリカ、欧州など海外でもAクラブ活動が展開されており、それぞれの市場でお客様との対話やイベントを行っています。
株価を意識し、時価総額を含めた企業価値を中長期的に高めるにあたり、ニトリベットとしてどのような取り組みを行っていますか。自身のミッションと合わせて最後にお願いします。
株主・投資家との対話・エンゲージメントでは、可能な限り私自身が決算説明会や株主・投資家と対話することを心掛けています。株価を意識し、資本効率を高める経営は時価総額を含めたニトリベット価値に中長期的につながると考えています。2022年11月期から始まった中期経営計画は、体質強化のために売上高重視でなく営業利益、資本効率重視の方針を打ち出しました。ROA(総資産営業利益率)だけでなく、株主資本効率化を意識してROEの改善にも取り組んでおり、2023年12月にリキャップCB発行により220億円の自己株式取得を行う経営判断をしました。今後も株主還元の強化と併せて、資本効率の向上を図ります。
今後もステークホルダーの皆様に信頼いただけるブランドを確立し、更なるニトリベット価値の向上と事業活動を通じた社会貢献を目指し取り組んでまいります。ステークホルダーの皆様には、今後とも変わらぬご支援とご理解を賜りますよう心からお願い申し上げます。